― ファッションと花の美が交差する空間 ―
奄美大島で見た風や光が、
静かに、このコレクションの
輪郭になっていました。
強く語られることはなく、
ただ、空気や時間の感触として、
衣服の中に息づいている。
目に見えるデザインの奥に、
確かな「体験の気配」を
感じさせるコレクションです。
今回、Arobe
2026 SPRING & SUMMER コレクション
— Elements of Grace — にて、
X you は装花を担当させていただきました。
このコレクションの背景にあるのは、
誰か一人の原体験ではありません。
奄美大島で過ごした時間は、
オーナーとデザイナーが、
新作として共に体験し、
ブランドとして受け取った感覚でした。
島に吹く風、
強い日差しとやわらかな陰影、
湿度を含んだ空気、土の色。
そして、大島紬に宿る、
長い時間の重なり。
それらは「題材」として
切り取られるのではなく、
身体に残る感触として持ち帰られ、
衣服へと静かに落とし込まれています。
Arobe の服から感じられるのは、
説明を必要としない、
奥行きのある静けさです。

ファッションと花は、
どちらも「美」を扱う
存在でありながら、
その役割は決して
同じではありません。
ファッションは、
人の身体とともに動き、
時代や社会、思想と
結びつきながら変化していきます。
一方、花や植物は、
人の意図とは関係なく季節を巡り、
常に「今」という時間を生きています。
世界的に見ても、
優れたファッションの表現において、
花や自然は装飾としてではなく、
思想や世界観を立体化する
存在として扱われています。
衣服の美を前に出しすぎることなく、
感覚を整え、視線や時間を導く役割として。
今回の装花においても、
花は主役になるために
置かれているのではありません。
衣服と空間のあいだに流れる空気を整え、
その場に在る時間を、
やわらかく受け止めるための存在です。
装花を考えるうえで意識したのは、
何かを「足す」ことではなく、
余白を守ることでした。
枝の動き、葉の重なり、
わずかな高さや距離感によって、
空間の印象は大きく変わります。
その変化は決して劇的ではありませんが、
人の感覚には確実に作用するものです。
花があることで、
衣服を見る速度が
少しだけ緩やかになる。
視線が留まり、呼吸が深くなる。
そうした体感の積み重ねが、
コレクションへの理解を、
より身体的なものへと導いていきます。
Arobe の空間やデザインは、
常にとても洗練されています。
けれど、その洗練は、
張りつめた緊張感から
生まれるものではありません。
オーナーの方も、
デザイナーの方もとても気さくで、
場の空気を自然に
和らげてくれる存在です。
打ち合わせや現場でも、
強い言葉や一方的な
判断が前に出ることはなく、
その場の感覚や流れを確かめながら、
静かに進んでいく時間が印象的でした。
配置や距離感についても、
完成形を急ぐのではなく、
立ち止まり、視点を変え、見つめ直す。
そうした過程を重ねることで、
空間は次第に落ち着く場所へと
向かっていきます。
呼吸の合ったメンバーが
集まることで生まれる、美の調和。
それは、計算や理屈だけでは
説明できないものですが、
確かに空間の中に存在していました。
完成した空間を前にして感じたのは、
「つくり上げた」という感覚よりも、
「自然に、ここに在った」という実感です。
衣服、植物、人、光。
それぞれが主張しすぎることなく、
ひとつの景色として在る時間。
その静かな調和こそが、
今回の展示の魅力だったように思います。
このような機会をご一緒できることは、
X you にとっても、大きな喜びです。
花や植物は、写真や記録以上に、
その場で過ごした人の記憶に残るもの。
だからこそ私たちは、
花を主張させるのではなく、
空間や時間の一部として、
静かに寄り添わせたいと考えています。
改めて、
いつもお世話になっている Arobe の皆さまへ、
心より感謝を込めて。
奄美大島で共有された感覚と、
この展示会に流れていた時間が、
これからもどこかで、
そっと息づいていきますように。

空間装花・フラワーデザイン
X you(タイムズユー)
花や植物を、
飾りではなく、
その場所に流れる時間の一部として。
X you は、記憶に残る
空間づくりを大切にしています。
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